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東京家庭裁判所 昭和62年(少)5031号 決定 1987年4月21日

少年 I・H(昭43.3.16生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、深川地区を根城とする暴走族「○○」の元リーダーであるが、

1  「○○」のグループ員から、かねて対立関係にあった暴走族「△△」のグループ員によってしばしば「○○」に対する脅迫電話が架けられていることを聞いていたことから、昭和62年3月14日午後11時ころ、東京都江東区○○×丁目×番×号○会館前路上において、同所に集合していた「○○」のグループ員とともに「△△」に対する報復を企て、少年において自家用普通貨物自動車(○○××ふ××××)を準備し、同月15日午前零時30分ころ、同区○○×丁目×番×号スーパー「○△」前路上において数名の「○○」のグループ員によって角材、鉄パイプ、竹竿などがワゴン車に積み込まれたことを認識しながら、これを用いて「△△」に報復を加える目的で「○○」のグループ員を乗せた同車を運転し、もって他人の身体等に共同して害を加える目的で凶器の準備されたことを知って集合し

2  公安委員会の運転免許を受けないで、同日午前3時10分ころ、東京都江戸川区○○×丁目×番船堀橋上において、前記自家用普通貨物自動車を運転したものである。

(法令の適用)

1  の事実について刑法第208条の2第1項

2  の事実について道路交通法第118条第1項第1号、同第64条

(認定替えをした理由)

本件送致事実の第1は、少年は、昭和62年3月14日午後11時ころ、東京都江東区○○×丁目×番×号○会館前路上において、同所にい集していた「○○」グループ員10名くらいから、かねて対立関係にあった暴走族「△△」グループ員による脅迫電話の話を聞き、同グループ員に対する仕返しを決意し、同所において「○○」グループ員に対し、「これから△△をやりに行く。俺が車を見つけてくるからお前らは道具を用意して、またここに集まれ。」等と申し向け、翌15日午前零時30分ころ、同所に角材5本、鉄パイプ7本、竹竿1本を準備したA(17歳)他11名を集合させ、もって他人の身体等に共同して害を加える目的で凶器を準備させ、その準備のあることを知って人を集合させたというものである。

しかしながら、本件各証拠によれば、昭和62年3月14日午後11時ころ、前記○会館前に集まっていた「○○」のグループ員は、B、C、D、A、E、F、G、H、Iであり、同人らのー部は、「△△」のグループ員から脅迫電話が架かっていたことから「△△」に対する報復を企図していたこと、そこに更に少年が加わることにより、話が具体化したこと、そのための足を確保するため、少年が自家用普通貨物自動車(ワゴン車)を借りに出かけたこと、その際、少年が「○○」のグループ員に対し、何かを準備するように述べたことは認められるものの、少年のその指示により、同所において「△△」に害を加えるための凶器が準備された事実は認められない。少年の司法警察員及び検察官に対する供述調書中には、同所において少年がグループ員に集めた武器をワゴン車に積み込ませたとの記載部分があるが、前記D、F、C、I、A、H、Eの司法警察員に対する各供述調書によれば、同所において角材、鉄パイプなどの武器が集められた事実は認められず、その記載部分は、信用できない。これらの各供述調書によれば、グループ員が角材、鉄パイプ、竹竿などを集めたのは、江東区○○×丁目×番×号スーパー「○△」前路上であることが認められ、これが少年の指示により行われたと認めるに足る証拠はなく、かえってグループ員が各自の意思に基づいて実行したとの事実が強く推測されるのである。また、少年は、ワゴン車を運転して、「○△」前に赴いており、同所において、さらにJ、K、Lらが同車に乗車しているが、同人らは、本件の凶器である角材等がワゴン車に搬入される前に既に同店前に集合し、同行の勧誘を受けていたことが認められ、少年が凶器の準備のある事を知って集合させたものとは認められない。そうすると、少年が他人の身体等に共同して害を加える目的で凶器を準備させ、又は、その準備のあることを知って人を集合させた事実は認められず、送致事実の凶器準備結集罪は、成立しないものといわなければならない。しかし、少年の当審判廷における供述によれば、「○△」前を出発してからは、同車に角材、鉄パイプ等の凶器が積み込まれていることを知り、これを用いて「△△」に共同して害を加えることを認識しながら同車の運転を継続したことが認められるのであって、この所為は、凶器の準備のあることを知って集合する行為に該当するものであり、凶器準備集合罪を構成するものと言わなければならない。そして、この事実は、送致事実第1記載の事実と基本的事実関係を同一にするものであるから、新たに立件し、又は送致を受けることなく、本件非行事実として認定できるものと解される。よって、前記非行事実1の事実について、少年に対し、これを告知し、その弁解を聴取した上で、これを認定したものである。

(処遇の理由)

少年は、中学3年生のころから、暴走族「○○」と接触するようになり、17歳のころまで加入し、その後も後輩のグループ員たちと接触を続けており、本件は、後輩たちが「△△」のグループ員から脅迫されていることを聞き及び、「△△」に対し先制攻撃をかけるため、無免許でワゴン車を運転走行中に発覚したものである。少年には、これまでに無免許運転及び暴力行為の前歴があり、もし、「△△」と出会っていれば、凶器を用いての乱闘に発展していたと推測され、同種の再犯に及ぶおそれが認められる。

少年の生育過程を見ると、当初は、ごく普通の平和な家庭であったと思われるが、父親が交通事故にあってからは、その後遺症のために父親が酒を飲み、少年に対して暴力を振るうようになり、少年は、家庭で落ち着くことができない不遇な環境に置かれることになった。そのため、十分な学習の機会にも恵まれず、社会的な仕付けも十分にはなされてこなかった。高校に入ってからも気分が落ち着かず、校則違反を繰り返すことになり、父の死後、高校を中退するに至った。その後、長続きはしないものの、職に就き、苦労をしてきた母親のためにお金を稼ぐ努力をしてきているが、就職先で知り合った暴力団員との接触から組関係の仕事場で働くようになり、昭和61年8月には、暴力団に加入し、その考え方も身に付けるに至っている。少年の中には母親のことを考え、組を辞めようという気持ちもあるが、明確な離脱の決意はできていない。したがって、このまま、自宅に戻れば、また組に戻り、暴力団への傾斜は強まるものと考えられ、同種非行から更に重い非行へと深化するおそれがあり、在宅での保護は困難である。しかし、少年は、本来優しい性格で、お金を稼いで母親を楽させてやりたいという気持ちも持っており、この気持ちを大切に育てて行けば、暴力団からの離脱も十分に可能であり、社会の正しい考え方を身に付けさせれば、更生できると認められる。

したがって、少年に対しては、中等少年院に送致し、基本的な考え方や生活態度を教え、反社会的な行動傾向を払拭させ、健全な労働によって生活する力を身に付けさせることが必要であると認められる。

よって、少年法第24条第1項第3号、少年審判規則第37条第1項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 大塚正之)

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